仕事絡みで誘われてアンダルシア州ウエルバ県に足を運んだのはまだ夏の残暑が厳しかった10月後半。日照時間の長いアンダルシアでは、スペイン北部よりおよそ一ヶ月ほど遅くぶどうの収穫-vendimia-がピークを迎えていました。今回のスペインの扉はアンダルシアに位置する小さな村-ラ・パルマ・デル・コンダドへ皆様をお連れいたします。
ラ・パルマ・デル・コンダド(La Palma Del Condado)
ラ・パルマ・デル・コンダドは首都マドリードからおよそ580kmほど西南、アンダルシア州都のセビーリャから55kmほど西に位置する人口約1万600人の小さな町。もちろんこの町の名前は外国人観光客向けに書かれたガイドブックにはきっとどんな言語でも書かれていないでしょう。なにしろスペイン人ですら知っている人のほうが少ないと言っても過言でないこの町の存在はスペイン国内であってもとても小さく地味なのです。
でも、そんな小さな町にはハモン・イベリコ・ベジョータがあって、ぷりぷりの白海老があって、サレマ種ワイン酒造もあって、世界一有名なコニャックメーカーのレミー・マルティンに劣らない品質と歴史を誇る100年物のブランディーを作る酒造もあるのですよ、とひっそり誰かに教えてもらったら?元来見たがり知りたがり、好奇心の塊の筆者は「絶対行ってみたい!」となって今回の訪問が実現しました。
人ありき、人が物を造り文化を生み歴史を連ねる
訪問にあたり事前にどんなところなのか自分なりに調べてみたのですが、これと言って執筆に値する情報は見つけられず、真っ白の状態で現地入り。ところが町に足を踏み入れた途端筆者をとても驚かせたのものがありました。
それは人。人が違うのです。
手前味噌的で恐縮ですがこの20年間スペインのあちこちを訪ねてきました。観光大国のスペインの都会には黒髪の日本人含め世界中からの観光客で溢れ返っているので、黒髪グループであろうと金髪グループであろうと特に好奇の目で見られることはありません。逆に小さな町に黒髪の東洋人が降り立つと、宇宙人を見るかのように子供から老人までじぃっと私の影が視界から消え去るまで見続けるなんてこともありました。でもパルマ・デル・コンダドの人たちは、道路工事の人、警備員、警察官、通りすがりのおじいさん、子連れのお母さんと子供、みんな笑顔で「オラ!」と私たちに挨拶をしてくれるのです!!こんなことは初めてでした。いえ、初めてではないかもしれないけれど、誰もが他人の都会暮らしが長くなった私にとって久しぶりに見ず知らずの人から受けるシンパシーに感動したのです。笑顔が純粋で決して私たちのことを好奇の目で見ているのではない、彼らの心は純粋にわが町にようこそ、と言ってくれているのが感じられたのです。その感動は滞在した数日間ずっと続きました。この町の人たちは心の底から自分たちの町を愛し誇りに思っている、だから遠くから自分たちの町を、文化を訪ねてきてくれて有難う、と笑顔で伝えてくるのです。これぞ私が常に愛してきたスペインの純な魂。他人と比較しない、自分たちのありのまま受け入れ愛する歪みのない精神。そんな人たちが真心こめて作り出すものは、世界一有名でなくても”本物”に違いありません。

とにかく始終笑いを提供してくれた、底抜けに陽気な典型的アンダルシア紳士は町のあちこちを飾る装飾タイル製造会社「Mosaico Pino」のオーナーでもある実力者。モサイコ・ピノは2017年に創業100年を迎えるモザイクの老舗。

ワイナリー「Sauci」の若き女性オーナー、ベゴーニャさん。こちらのワイナリーのご自慢はウエルバ特産の「オレンジワイン」。歴としたワイン作りの工程でオレンジの香り付けをしたさわやかなワインはお祝いの席や食後の会話のお供に最適の一本です。日本にも輸出されているとか。探してみてくださいね。

ポテトチップス「LOLI」のオーナー。「みんなはLoliって僕の娘の名前だって思うみたいなんだけどね、実は僕のお義母さんの名前なんだ。この会社を立ち上げた時資金を出してくれたのが彼女なんだ。当然だろう?僕のポテトチップスは低温であげているのがぱりっとする秘訣なんだよ。」と笑顔いっぱい、幸せそうに語ってくれました。アンダルシアで見つけたら是非試してみてくださいねー。飾りけの一切ないポテトと揚げ具合と塩加減が勝負の昔ながらのポテトチップス。添加物は愛情のみ!
ワイン名産地の名誉奪回にかける町の将来
今回の訪問では期待以上の大きな感動と発見がありました。まさにそれはガイドブックに載っていないスペインに散らばる小さな宝石を紹介していくことを主な活動目的としているスペインの扉が求めることへの答えでもあります。
紀元前(A.C)8世紀頃にはすでにイベリア半島ではワイン作りのための葡萄栽培がされていたと証明されています。また最近の考古学的発見の結果、専門家の間ではこのウエルバこそがイベリア半島で最初にブドウ栽培とワイン作りが行われるようになったと証明できるかもしれないと言われて始めています。*

ラ・パルマ・デル・コンダドに現存する6つのワイナリーの中でも創業1893年まで遡るルビオ(Rubio)の内部。ルビオの主力商品は世界に誇る最高級ブランディー、“ルイス・フェリペ”で、1893年にフランス王Luis Felipeの名が刻まれたワイン貯蔵樽がこのワイナリーで偶然にも発見されたということで、そのワインをベースにルビオのブランディーはたっぷりと時をかけて作られきています。タイムマシンーでもない限りどれほどの技術を駆使しても“時間”という主原料だけは作り出せない。つまりスペイン国内ではLuis Felipeに適うブランディーは作りえないと言えるのでしょうか。
今から少なくとも3千年前からこのウエルバでは祝いの席、大切な契約を交わす場でワインが酌み交わせれてきた事が考古学発見に基づく研究の結果で証明され始めつつあります。 日本ではアンダルシアの銘酒といえばカディス県のヘレス・デ・ラ・フロンテーラのシェリー酒が一人勝ちですが、スペインワインに限定してDO(Denominacio de origen =デノミナシオン・デ・オリヘン)を見ると60以上の地域がワインのDOに認定されているので、逆に言うとまだ日本には紹介されていないけれどシェリーに匹敵するだけの品質を誇るワインが多く存在するということですね。ラ・パルマ・デル・コンダドには現在ルビオ社以外にワイン製造業者は5社あります。その原材料の葡萄はZalema(サレマ)というスペインワイン原産地呼称に認知されているコンダド・デ・ウエルバ(Condado de Huelva)のみで栽培される品種で、そのさわやかで芳香な飲み口はワインが好きでいろいろなワインを試してきた「自称ワインには少しだけうるさい」人たちでもきっと驚く新鮮な味だと思います。
そのサレマ種ワインを牽引にラ・パルマ・デル・コンダドはワインの名産地としての名を国内外で勝ち取るため、昔と今も変わらず愛情と笑顔を絶やさずワイン作りに日々精を費やしています。ちなみに日本ではサレマ種ウエルバ産ワインをSUNSEIKO21社が取り扱っていると聞きました。運よくウエルバのワインに出会ったら、是非試してみてください。お隣のワイン好きより一歩進んだ体験ができること間違いないありません。
ラ・パルマ・デル・コンダドまでの行き方
Renfe(スペイン国鉄):マドリードからは乗り換えなしの特急列車-ALVIAが便利です。2015年12月現在の調査では3時間8分で現地に到着する朝9時45分発の特急があります。片道48.71ユーロ。全座席購入時の指定制です。終着駅はHuelva-ウエルバ。(かの地については別の記事でご紹介したいと思っています。)
*参考資料-LA HISTORIA DEL VINO LIGADA AL CONDADO DE HUELVA
最後に、今回の訪問で出会った人たちを以下ご紹介しておきます。
ワイナリーGaray、ワイナリーInfantes、ドニャーナチーズ、ワイナリーMillan、ワイン共同組合-Nuestra Señora。
今日も最後まで読んでいただき有難うございました。次回の記事では引き続きパルマ・デル・コンダドに流れる赤い河のお話をしたいと思っています。お楽しみに。
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