2月14日は世界中でバレンタインデーですね。チョコレートを手作りしたり、花や本を贈ったり、色々な表現方法で気持ちを同堂々と表せる日なので、言葉で気持ちを表すのが下手、なんていう人には素敵な口実ですね。でも時々、自分の気持ちに正直に生きるなんてことはとても贅沢な時代なのだなぁ、なんて改めて思うときもあります。それは、まさに2月15日を目の前にした今日なんかがその時でした。それはテルエルの恋人達を追悼するお祭りがテルエルで開催されるニュースを読んだから。
今回のスペインの扉では、知られているようで知られていないテルエルの恋人伝説について迫ってみようと思います。
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イサベルとディエゴの悲しい愛の物語
悲恋の物語というと、誰もが『ロミオとジュリエット』を思い浮かべるでしょう。でもそれは小説・仮想の世界での物語り。こちらイサベルとディエゴの悲恋の物語は実際に13世紀に起こったとテルエルに言い伝えられる伝説なのです。
それはアラゴン地方-テルエル県出身の少女イサベル・デ・セグラと少年ディエゴ・デ・マルシーリャのお話です。
時は13世紀、中世のさなかのテルエル。裕福な地元の商人の娘イサベルがある日、貧しくも高潔な若きディエゴに街の市で出会い、瞬く間に二人は恋に落ちました。二人は深く愛し合い、やがては結婚を夢見る間柄に。しかし良家の娘のイサベルは、両親の承諾なしでは結婚はありえないことも十分に理解していました。悲しいかな、ディエゴは大変立派で誠実な若者ではあったものの、娘に捧げる富はあらず、イサベルの両親に結婚は許されませんでした。そこでディエゴはイサベルに、自分は一生懸命働いて、イサベルに相応しい財産を持って戻ってくるから5年間待つようにと懇願します。イサベルはもちろん愛するディエゴの言葉を信じ、帰りを待つことを誓ったのでした。
テルエルを離れ、何とか財を築こうとモーロ人と戦争に参列、それこそ必死に戦い続けお金を稼ぐディエゴ。一方、テルエルに残されたイサベルは、父親に再三婚姻の話を勧められるも、二十歳になるまでディエゴに純潔と忠誠を誓い彼の帰りをを待つのだと泣いて訴え何とか結婚を逃れます。
しかし運命とは時に残酷なもの。ディエゴがテルエルを離れてからまもなく5年の歳月が経とうとするものの、彼の帰還の便りは届かず、ついにイサベルもディエゴはどこかで命を落としたのだろうと思うようになったのです。ディエゴはもう私のところには帰らない・・・。娘に結婚を強く望んでいた父親にその胸の内を話すや、丁度約束の日になった日に、父親は早速以前からイサベルとの結婚を望んでいたお金持ちのドン・ペドロ・デ・アサグラとの結婚の準備を整えました。
ところがまさに婚姻が終わったその日、ディエゴがテルエルに帰還するのです。ですがイサベルはもうすでに既婚の身。それを知ったディエゴは若き夫婦が眠る寝室にそっと忍び込み、優しくイサベルを目覚めさせると、囁きました。
- 愛しいイサベル。どうか私にくちづけを。そうでなれけば私は悲しみの果て、命尽きてしまいます。
胸が張り裂けんばかりの苦しみ胸に抱きつつ、イサベルは
- あぁ、なんと、神は私に夫を裏切れとおおせなのでしょうか。どうかイエス様のご慈悲を。神を裏切るようなことを仰り、私を苦しめるようなことを仰る貴方、どうぞ別の方をお探しください。
ところがディエゴはまた囁きます。
- どうか私にくぢつけを。さもなくば私は息絶えるでしょう。
イサベルはそれを聞き再び彼の願いを拒絶するや、ディエゴはその場に倒れ息絶えてしまいました。
イサベルはその様子をまるで真昼の出来事のようにはっきりと見たのですが、その瞬間恐怖に体中が震え始めました。急いで横に寝ていた夫を起こし、あまりにもいびきをかくので怖くなって目が覚めたから、何か楽しい話をしてくれと頼みました。すると夫は冗談を語りました。彼の話を聞き終わると、今度はイサベルが口を開き、今ここで起こり見たことを夫に全て打ち明けたました。どのようにディエゴがここに現れ彼が命途絶えるまでのことを。
- なんと非情な!なぜ彼の懇願に応じなかったのか。
こう聞き返す夫に、
- それでは貴方に不貞を働くことになりますでしょう。
と答えるイサベル。妻の貞操ぶりに感心するもつかの間、夫はすっかり目が覚めるとどうしてよいか分からなくなり、困惑してしまいました。
- ここでディエゴが死んだと人々の耳に触れると、皆私が彼を殺したと疑い、大変なことになる・・・。
そこで二人は、ディエゴの亡骸をディエゴの実家へ運ぶことにしました。人目に触れぬよう、一切音を立てないよう、細心の注意を払いながら。その時イサベルの心には、彼女がどれほどディエゴを愛していたか、そして彼が彼女の為にどれほどの犠牲を払ったかのすべてが思い出されたのです。彼女が口づけを拒んだばかりに彼の命の炎は消えてしまった…。彼の亡骸が埋葬される前に、最後の望みであった口づけをしにいこう。こう心に誓いました。
そして埋葬の当日。葬儀の行われていたサン・ペロド教会に彼女が姿を現すと、参列者達はみな席を立ち彼女に言葉をかけようとするのですが、イサベルはそれには目もくれず、愛するディエゴの横たわる棺のあるところへまっすぐ歩みを進めました。彼女は彼の顔から経帷子をはずすと、顔を近づけディエゴに強く口づけをしました。
ディエゴの親族でもない彼女が、亡骸に覆いかぶさるようにして離れようとしないので、そこから立ち退くように人々が近づくと、イサベルはディエゴに口づけをしたまま息を引き取っていました。
イサベルの夫は、彼女が彼に語ったことをその場に居合わせた全ての人々に話しました。そして、二人を一つの棺に眠らせることにしました。何時までも一緒にいられるように。
如何ですか。これがテルエルが愛の街、と呼ばれる由縁なんですね。
イサベル・デ・セグラの結婚式
この物語と史実を織り交ぜて、テルエルでは毎年イサベル・デ・セグラの結婚式というお祭りが祝われます。実際のところ、このお祭りが祝われるようになったのはそう昔のことではなく、1997年。地元の俳優グループ達が中世の服装をし、イサベル・デ・セグラの結婚式の様子を再現しながらテルエルの街を練り歩いたことがきっかけだったとか。その時から年々今の祭りの様子が形作られていきました。お祭りは毎年2月の第三週目の木曜日から日曜日にかけて開かれます。現在は、国の観光重要文化財登録を目指して、テルエル市の行政と市民が協力体制を気づいて働きかけています。
2018年の開催期日:2月15日木曜日~18日日曜日
街には中世の様子を再現した市が立ち並び、期間中、イサベルの結婚式を再現する劇やパフォーマンスはもちろん、民族音楽のコンサート、パレードなどがありますが、それぞれに重要な再現劇が行われます。
木曜日:結婚式前夜
金曜日:イサベルの結婚式
土曜日:くちづけの懇願/ディエゴの死/悲哀に泣き伏せるイサベル
日曜日:ディエゴの埋葬
というように、祭りの間物語も同時に進んでいきます。テルエルに連泊しないと、ですが、それが無理ならせめて最終日、お祭りがクライマックスを迎える日にテルエルにいられるように計画を立てるといいですね。クライマックス-恋人達への頌歌と名打ったイベントでは、集まった人達全員が同時に好きな人にキスをするんですって!(もちろん義務ではありませんが、事前に知っておいくとあまり驚かなくていいかなと。)新婚さんやいまでも仲良しな恋人同士なら、一生に一度、互いに愛し合う人々に混じって、こんなイベントでキスしました~なんて、素敵な思い出じゃありませんか?
もっと知りたくなったら!イサベルの結婚式(お祭り)の公式サイトはこちらから。(スペイン語のみ)
テルエル豆知識
長い間行政の手が不届きで、インフラ、社会制度が世間並みに整っていなかったテルエル。市民の長年の訴えも実をなさず、業を煮やしたテルエルの市民達は1999年に立ち上がり、『Teruel Existe(テルエルは存在する)』という団体を組み、テルエル県中央政府に直談判する活動を開始。この時点でスペイン国内唯一国道もテルエルは通らず、唯一走っていた鉄道路線は老朽が進み、一年に8度も脱線事故を起こす始末。そんな背景からか、観光業が多くの地方行政を豊かにするための資源となっていく中、テルエルはここでも遅れをとってきました。
ここ近年、AVEをオラが村に、という切り札は選挙の投票率を高める絶好の約束となってきてはいるものの、お金はかかるしここは悪名高い(失礼!)スペイン政府。まだまだAVEで首都やバルセロナのような都会に地方都市が繋がっているわけではありません。それでも、『Teruel Existe』の活動は全国で有名になり、随分と社会制度の改善をしてきたそうです。
スペインの扉からの旅の1ポイントアドバイス
今でもAVEは通っていませんが、AVEがサラゴサに停まるようになったので、マドリードまたはバルセロナからRENFE(鉄道)だと、サラゴサで乗換えればいけるようになり、時間もある程度短縮されたといえるでしょう。また現在では国道420線も整えられ、マドリードからは直通のバスも走っています。
鉄道でテルエルに到着する場合、駅から至近、かつ市の中心までの至近のホテル-グラン・ホテル・ボタニコがお奨め。近代的な設備に加えてなんといっても街の観光をするのにも大変便利ですよ。
テルエル観光局オフィシャルサイトはこちらから。

スペイン個人旅行、二度目のスペインはテルエルに行こう。Vitalspainの丸投げオーダーメイドプラン。
今日も最後まで読んでいただき有難うございました。
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