生ハム 原木 スペインでは骨も皮も使いきります!

by 土屋 寛子

生ハム 原木 スペインではこうして骨も皮も全部使い切ります!

スペインではクリスマスシーズンが近づくと、仕事でお世話になった取引先の人や、会社の社員または親戚や知人同士でクリスマスギフトを贈る習慣があります。ギフトは、チョリソ、サルチチョン(スペイン製サラミ)などの腸詰や、フォアグラのパテー、オリーブ油、ワイン、シャンパン、トゥロンやドライフルーツなどが詰まったものが一般的です。こちらは12月20日前後~1月6日頃がクリスマス休暇時期にあたり、その間に家族、親戚、友人などと家で集うため、大勢でワイワイとする場ですぐにテーブルに出せる食品が詰まっているクリスマスギフトは大いに喜ばれます。そんなクリスマスギフトの人気の1つに、生ハムの原木があります。

私がマドリードで暮らし始めた1年目、当時勤めていた会社のアンダルシアの取引先からスタッフ全員に生ハムの原木が1本ずつ送られてきました。1人暮らしかつスペイン生活初心者だった私はザ・スペイン!的なギフトを頂いても、1人で食べきるには大きすぎるし、どうやって管理したらいいのかわからなくて、うれしいより困った気持ちのほうが勝ったのを覚えています。でも頂いたからには挑戦するか!兎にも角にも生ハムの原木を支える台(ハモネロ)と生ハムを切る専用ナイフを調達することから始めたのですが、いざ切ってみよう!っとなるとこれがまたすごく難しい。

 

生ハム 原木

ハモン・イベリコの名産地ギフエロ(サラマンカ県)産の生ハムの原木

 

皮は思った以上に固いし、手はべとべとになるし、なにせ生ハムを最初から切るところすら見たことがなかったのですから、どこまで皮を削いだら食べられる部分なのかなど、とにかく何もかもかがわからないのです。記念すべき我が人生初の生ハムの原木一本目とはしばらく格闘したものの、切るのが難しい・面倒くさい・1人じゃ減らないという3つ難関を突破出来ず、最後は駄目にしてしまいました。

あれから、20年以上の年月が経ち、私が自分で処理してきた生ハムの原木の本数も20本近く。今年はイベリコ、ベジョタと高級生ハムの代名詞である名産地、サラマンカのギフエロ産の素晴らしい生ハムを頂いて、家族と取り合うように生ハムを食べる素晴らしいクリスマスの日々を過ごしていると、筆者の人生で生ハムの原木がある時期は格別なものになったんだな、なんて時の移り変わりを実感したのです。そういえば、マドリードに移り住んだ頃なんで、輸入品の入手が比較的容易であった神戸でもスペイン製の生ハムは売ってなかったですもんね。

スペインの家庭で生ハムの原木を食する場合、家で自分たちで切りながら食べる方法と、生ハムの原木まるごとハム屋に持ち込んで解体、切り身にしてもらう方法があります。我が家ではここ数年はハム屋さんに解体してもらう方法を選んでいます。家族、親戚が少ないため生ハムがおいしい間に食べきれないこと、上手に切れないこと、骨や皮などまで活用し切れないこと、保存管理が(私にとって)面倒なこと、などが理由です。

上等な生ハムは腕のよい人に切ってもらわないと!スライスがぶ厚かったり、骨を上手に分けてくれないものね、そこで今年は少し奮発し、40ユーロ支払って高級生ハムを取り扱うお店に持ち込みました。

「ほお。いい生ハムを持って来たね。1週間くらいで用意して電話するよ。」

お店の人が褒めてくれたのは、Simon Martin(シモン・マルティン)社の生ハムでした。シモン・マルティン社はハモン・イベリコ・ベジョタの製造を1907年から続けるギフエロにある老舗の腸詰専門製造会社。シモン・マルティン社では生ハム、腸詰類のすべて100%自然素材、無添加にこだわっています。仕事先、プライベートなどで色々なところのハモン・イベリコ・ベジョタを食べてきましたが、シモン・マルティン社の生ハムは初めて。果たしてどんな味なんだろう?

ワクワクする思いでお店から帰宅後、3数時間もしないうちに、「準備できましたよ。」と連絡がありました。お店の人も楽しみだったのかしら?

解体して作ってくれたのは、150gmの真空パックが8つ。スライスにしきれなかった部分をみじん切りにしてくれたもの(およそ100gm)が1つ、そして皮、骨、足の爪まで。解体後の写真を生ハムを贈ってくださった人を通じでシモン・マルティン社の方に見ていただいたら、今度は

「へえ。とても上手に解体してくれたね。」とおっしゃっていたとか。

 

ギフエロ産ハモンイベリコ 真空パッ

専門店に持っていくと、このようにお肉部分はすべて真空パックに。骨、蹄、皮などはお料理に使いやすいように小さくカットしてくれます。

生ハム 原木の保存方法

生ハムは簡単に言うと豚の足を塩漬けにした保存食。冷蔵庫のなかった時代に生まれたスペイン人の知恵の結晶です。原木を切りながら食べていくのであれば常温保存が可能です。

スペインでは、通の人は切り口に切った皮の部分をかぶせて保存しますが、そうでない場合は切り口が乾いてしまわないようにサランラップを被せ、その上からハム全体を覆えるような大きめの布巾などを被せ、直射日光の当たらない涼しい場所に保管しておきます。保存環境にもよりますが、最低1か月以内には食べきるようにしましょう。

 

 

解体した原木 生ハムを最大限に楽しむには

 

生ハムを家で食べるときの注意ポイント

おいしい上等な生ハムを家で食べるときに注意するポイントを挙げておきましょう。

  • 常温で食べること
  • 新鮮なうちにたべること
  • スライスは可能な限り薄めで
  • 脂身は取らずに食べること
  • 生ハムの前に味の濃いものを食べないこと

 

生ハムは冷たいと肉も脂身も固くなってしまう上、香りも消えてしまうので、必ず常温で食べることがポイントです。また均等に切れていて薄いスライスほど、肉の柔らかさと脂身のバランスが上手に保たれおいしさがより引き出されます。おいしい生ハムは味はもちろん香りも楽しみの一つなので、食べる前に味の濃いものを口にすると、それを最大限に楽しむことができません。もしも濃い味が口の中に残っている場合は、パンを一口食べた後に生ハムを食べるといいですよ。

生ハムにはどんな飲み物があいますか?という質問を聞いたりしますが、こればかりは本当に食するときに状況と個人の好みだと思うんです。暑い日に野外やテラス席でのビール、素敵なレストランのディナー席なら赤ワイン。今日は何と合わせようかな?くらいの気持ちでいいと思います。筆者の好みですと白ワインよりは赤ワイン。コカコーラよりビールですね。

 

上等な生ハムほどシンプルに食べましょう

さて、待ちきれない家族たちに催促され、早速100%無添加生ハムをその夜に食べることにしました。

「お、おいしい~。」

家族揃って一口食べるや家族全員からうなるように漏れたこの一言。筆者に生ハムを贈ってくださった人が「今まで食べた生ハムの中で一番おいしかった!」と興奮気味に話してくれたわけがよくわかりました。

ほどよい脂の乗り具合は、真空パックになっていても切り口がつやつやしている辺り、一目でわかります。そしてイベリコ・ベジョタならではの、噛みしめる度に口に広がる甘い香り。強すぎない塩加減とハムの柔らかさは、肉の性質に有った熟成期間が与えられてこそ出来上がる結果なのですが、それらすべてが絶妙で、飽きないおいしさです。

なんて贅沢なひと時。これさえあれば他はなんでもいい。

いろいろな言い訳が重なってお昼ご飯や晩御飯が手抜きになってしまっても、生ハムがあるだけで一気に食卓が贅沢に変わるからあら不思議。生ハムの存在力とそれがもたらしてくれる贅沢感は、豊富な日本の食文化の中でも相当するものが見当たらないかな、なんて、ここでもスペイン依怙贔屓モード全開ですが、ハモン・イベリコはそれほどスペインの食文化の中ではありがたく、すべき存在だと思っています。

我が家ではそのまま食べることの方が多いのですが、週末は朝食やランチに、摺り下ろしたトマト、生ハムとオリーブオイルをかけてトーストにして食べるのも大好きな食べ方の1つです。その場合、パンは食パンではなく、必ず固めのバゲットタイプのパンで作ってくださいね。

ちなみにオープンサンドのことをスペインではモンダディート(montadito)と呼びます。軽食を取り扱うバルやカフェで、メニューにmontaditos de jamon ibericoを見つけたら是非試してみてください。イベリコまたはベジョタと書いていたら、外れることはまずないと思います。空港やRENFEのターミナル内のカフェでも扱っているお店がありますが、市内の倍くらいお値段がします。

 

生ハム イベリコのオープントースト 自宅で

生ハム イベリコのオープントースト 自宅で

 

 

生ハムを食べるとエンドルフィンがたくさん分泌される?!

ハモン・イベリコ・ベジョタの脂身には悪玉コレステロールの生成を抑制し、善玉コレステロールの増加に役立つオレイン酸(一価不飽和脂肪酸)が55~60%も含まれていて、血液を綺麗にしてくれるというのですから、健康を気にされている方でも安心して食べられますね。おまけに生ハムは完全グルテンフリー食なので、グルテンアレルギーの方でも食べられるそうですよ。

スペインではいつでも生ハムを食べますが、私は朝食に食べる生ハムが一番おいしいと感じます。

朝から健康なたんぱく源で一日を始める小さな贅沢が大好きなんです。おいしいものを食べると脳内麻薬とも呼ばれるエンドルフィンというホルモンが多く分泌され、幸福感を高めてくれると聞いたことがありますが、脳の研究をしている世の専門家の皆様。エンドルフィンを活性化させる方法の一つに、「極上のハモン・イベリコ・ベジョタの生ハムを食べること」をどうかリストに加えてください。一週間頑張った週末の朝。淹れたてのコーヒーと最高においしい生ハムトーストが食べられる時の幸福感は半端じゃないですから。

 

余った生ハムの利用方法

スライスにしきれなかった部分は細かく刻んで、グリーンピースやほうれん草、ソラマメなどをみじん切りのにんにくと一緒にオリーブオイルでソテーする時に一緒に入れたり、コンソメスープに入れたりして使います。

生ハムは火が通りすぎると塩気が増してお料理がとがった味になってしまうのと、香りが悪くなります。またお料理が生ハムだけの香りになってしまい他の食材の味を殺してしまうので、火を止める30秒ほど前に生ハムを入れるのがポイントです。そうそう、夏場はガスパッチョやサルモレホに刻んだ生ハムははずせませんね。

 

原木 生ハムを食べた後の骨と皮の使い道

残る骨と皮も超お宝品です。生ハムの骨はスーパーでもスープや煮込み用に販売されていますが、イベリコ・ベジョタの骨は1ブロック数ユーロはするので絶対に捨ててはいけません。骨の周りにはナイフで削ぎきれなかったハムの身が付いていて、おいしい出汁が取れます。

我が家では生ハムの骨と和風だし、野菜スープを混ぜてラーメンのスープにしたりもしますが、やはりメインはマドリードっ子の主人も子供も大好きなマドリード風コシードに入れることです。ただし、骨にもしっかり塩がしみ込んでいるので、味付けをする際の塩加減には注意が必要です。ちなみに骨をすぐに使わない場合は、小分けにして冷凍保存しておきましょう。出汁を取る時は、解凍せずそのまま他の材料と一緒に水に投入できますよ。

原木を削ぎ始めると当然皮が出てきますが、切り始めの分厚い皮は、生ハムの切り口が乾かないように切り削いだ皮を上に被せて蓋のように使います。それ以外には、豚の脂身にはコラーゲンと旨味がたっぷり入っているので、コシードに1、2つほど一緒に入れて煮込みます。それでも使いきれない場合は、皮だけゆっくりとお水から時間を煮出すととろとろのスープストックになります。出来上がったストックはガラスの容器に入れて冷蔵庫に保存が可能です。我が家ではこれをラーメンのスープや、煮込み、中華スープのストックとして利用したりしています。ただし、香りが独特なので、一度にたくさん入れるのではなく、香りを確認しながら少量を隠し味に使う、くらいから試してみてください。

 

 

如何でしたか?

もっとスペイン産の生ハムについて知りたくなったら、ブログ内の「生ハム選びにお役立ち!スペインの生ハムの種類」という別の記事にて詳しく説明しています。そちらも併せてどうぞ。

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