スペインで暮らす~医療事情 公的医療保険編~
スペインで暮していて医療サービスを受ける場合、1.公的医療保険(Púbulico-プブリコ)または、2.民間医療保険(Privado-プリバド)かのどちらかに登録している必要があるでしょう。このページではそれぞれの特徴について話しておきたいと思います。
公的医療保険とは?
公的医療機関はSistema Nacional de salud de España(システマ・ナショナル・デ・サルー・デ・エスパーニャ)と呼ばれています。
スペインは大変ありがたいことに、医療サービスを国が保証してくれる世界でも数少ない珍しい国。税金で運営・管理されているこの公的医療機関は、滞在許可証やビジネスビザを取得してスペインに在住し、仕事をし、社会保障(Seguridad Social セグリダ・ソシアル)という枠で税金を支払っている人に対して、国民医療保険(Seguro Público)を提供しています。この保険に加入していれば、基本あらゆる検診、治療をスペイン全国の公的医療機関にて無料で受けることができます。
この公的医療保険に加入している人に対して、Tarjeta sanitaria(タルヘタ・サニタリア)と呼ばれる日本の保険証に相当する医療カードが発行されます。前述した通り、この保険に加入する為には、スペインにある企業にて就労している人、または個人事業主(Autónomo アウトノモ)として起業して、税金をスペイン国家に納めていることが条件となります。日本人の場合、その多くの方が企業に就労しているケースなので、その場合は会社の総務課が医療カードの申請もしてくれると思いますが、そうでない場合は、自分で社会保障センター(Seguridad Social セグリダ・ソシアル)のオフィスかオンラインサービスを利用して申請する必要があります。(オンラインで手続きをするには、まずはデジタル指紋またはユーザー登録を事前に行う必要がありますが、ここでは割愛いたします。)このカードは発行されると認識番号IDが振り分けられます。また、スペインに税金を納め続けている限り、この保険の有効期限が切れることもありません。(制度そのものが崩壊したら話は別ですが・・・。)
公的医療保険で医療サービスを受けるには?
保険加入者(患者)の健康状態を常に同じ医者が管理できるようにするため、住民登録をしている地域にある医療センター(Centro de Salud セトロ・デ・サルー)と主治医(Médico de cabecera メディコ・デ・カベセラ またはMédico de familia メディコ・デ・ファミリアとも呼ばれます)が指定されます。常に同じ先生と病歴についてもきちんと共有できるので安心できますよね。
前述の医療カードが発行される際に、暮している住所に対応する医療センターと主治医が指定され、その名前がカードの裏面に刻まれます。つまり原則どこでどの先生からサービスを受けるのかは事前に指定されていることになります。ただし、医者も患者も人間同士。指定された主治医の診察方法が好きになれない、意見や見解が合わないと感じることだってありますね。そのような希望に対応する為、近年では医療センターないしは主治医、またはその両方のサービスを受ける側(保険加入者)の意思で変更することがマドリードやカタルーニャなどの自治州では許されるようになりましたが、まだ全自治州では対応しきれていない状況です。
マドリードやバルセロナに暮らすのであれば、周囲の人に彼らの主治医のことを聞いてみるとよいですね。よさそうであればその先生を主治医にしてもらうことも可能です。「あの先生苦手・・・。」と医療機関から足を遠のけてしまうよりは、別の先生を試してみることをお勧めします。
健康には自信がある人、若く体力のある人などはこの国民医療保険で十分必要なサービスがカバーされているといえるでしょう。
ただし、短期留学生、留学生、旅行者などでスペイン国家に税金を支払わずに滞在している人は、この保険に加入することができないので、別途日本の海外旅行保健サービスやスペインの民間保険に加入している必要があります。
医療センター(セントロ・デ・サルー)とは?
ここには一般的に成人患者に対応する内科医(主治医)、小児科医(幼児の主治医)、助産婦と看護婦が配置されています。少し大きめのセンターになると歯医者もいます。ここでは患者の健康管理(相談・診察・定期健診)に加え、予防接種、検診用の採血などを行っています。
また子供の予防接種や、インフルエンザの任意予防接種、軽い事故や緊急患者の対処、出産準備の為のエクササイズや準備講座の開催や出産後の女性の体調管理や授乳相談など、幅広く対応しています。実際筆者自身も、出産イベントをマドリードで迎えましましたが、出産準備クラスに2ヶ月ほど参加したおかげで、同じ地域に暮す妊婦さんと顔見知りになり、出産後もお付き合いができるママ友まで作ることができて、大変ありがたかったです。
主治医のしてくれることとその役割
では、あなたの主治医とは、いったいどんな役割をしているのでしょうか。
例えば、
風邪かな?
咳が続いて治らない。
発疹が出てきて治まらない。
目がかゆくて充血している。
など、まずは医者に相談しておきたいような状況のとき、その「まず会いに行く医者」があなたの主治医です。
主治医の役割は主に問診・診察により、患者に必要なことがアドバイスだけなのか、投薬が必要なのか、精密検査が必要なのか、専門医による診察が必要なのかなどの判断をすることです。つまり、内科医であると同時に、公的医療機関のコーディネーターのような役割も果たしています。
女性の場合、出産に必要な検診・検査・そして大切な出産も、すべて国民保険でカバーされるているので、妊娠中にお世話になるのは前半は主治医、後半になると助産婦と主治医の二人に経過を管理してもらうことになるので、とても安心していられます。
もちろん健康な間に医者に行く必要はありませんが、こちらの人は軽い風邪でも自分の主治医に割りとすぐに会いに行きます。
1つ目の理由は、「病欠」の判断をするのも主治医の役目だからです。会社勤めをしている人は、軽い下痢や発熱であっても主治医に会いに行き、「医者に行った」証明書(Justificante フスティフィカンテ)を提出すれば会社を休むまたは遅刻・退社ことができるようになっています。自分の健康を守るのは自分しかいないから、大事をとるに越したことはない。これがスペインで健康を維持する1つの秘訣とも言えるでしょう。自分の権利が何であるのかをスペイン人はきちんと把握し、そしてきちんと主張・適用します。見習いたいですね。
なお、インフルエンザ (gripe グリペ)と判断されれば、会社には行かないように主治医が勧めてくれるでしょう。インフルエンザは感染するため人に感染させない、そしてよっくり養生する以外治療方法がない為ですが、そのような時、主治医の助言に従うのが懸命です。ここで日本人的な考えで「会社を休むと迷惑がかかる」と思って会社に出ると、逆に同僚に迷惑をかける、とスペイン人全員思うでしょう。素直に主治医の勧めに従って「病欠証明書(Baja バハ)」を書いてもらってください。ただし、この病欠証明書はすぐに会社に提出するものです。会社に事情を説明し、すぐに会社に届けなくてはならないのか、回復後の出勤時でよいのかを確認する必要があります。またバハの取り消し(Alta アルタ 。ここ言葉は退院するときにも使われます。)の判断をするのも主治医です。もう大丈夫かな?と自分で回復してきたと思ったら、改めて主治医に診てもらい、その判断を仰ぐ必要がありますので忘れないでくださいね。
2つ目は、自己判断はせず、きちんと病歴を記録しておくこと。日本を抜いて、世界でもっとも多くの長寿者の暮すスペイン。大雑把にみえて、案外皆さん健康には気を使っているものですよ。
国民医療保険のサービスは無料?有料?
国民医療保険制度は税金で運営され、すべての国民に健康を保障するためにある制度なのでサービスは無料です。日本のように一部負担などという「小さい文字」がありません。
大変ありがたいですが、どうしても改善されないマイナス点があります。
それは専門医の予約が数ヶ月先まで取れないことがざらにあるということ。(待っているうちに死んでしまうのでは?と思ったことはきっと誰にも1回以上はあるくらいです。)
ざら、というよりは”いつも”数ヶ月以上先まで予約が取れないというのが実情かもしれません。ただし、カレンダー通りに検査をし管理をする必要がある患者に対しては、医療機関側がきちんとその判断をして予約日を選出してくれます。例えば私は娘をマドリードで産んだとき、妊娠期間の前半は職場に近かったプライベートの産婦人科に通っていましたが、出産は自宅に一番近い市民病院を希望していたので、妊娠後期は主治医と病院の婦人科専門医とのコンビで経過を見守ってもらいました。
もちろん婦人科での妊娠経過を管理する検査も無料ですし、出産も無料。私が利用した病院は10畳以上はありそうな個室に、付添い人用のソファーベッドが一台、専用のトイレとシャワー室があり、プライベートの病院となんら変わらないすばらしい設備・待遇でした。ただし、出産後3日目に退院させられます。健康な母子ならば後は自分で何とかしてね、という具合です。
なお、国民医療保険の医者の処方があれば、服用する薬が一般的な病気に対応するも類のものであれば、その大部分が安価で購入することが可能です。(どれくらい安いかというと、プライベートの医療機関の医者の処方だと同じ薬でも3~5倍することもあります。)
急な症状でお医者さんに見てもらいたい時どうすればいい?
スペインには全国各地にある公的病院(Hospital Publico オスピタル・プブリコ)や医療機関(Centro De Salud セントロ・デ・サルー)では、24時間外来患者の診察を受け付ける緊急外来課(URGENCIA ウルヘンシア)と呼ばれる窓口が設けられています。
「夜に急激に症状が悪化してきた。」
「突然の高い熱が出始めた。」
「インフルエンザかも?」
「食中毒?」
ここウルヘンシアでは予約なしで急な発病にもすぐに対処してもらえます。直接ウルヘンシアへ出向き、受付でタルヘタ・サニタリアを見せ、症状を説明をして、受診の手続きをします。時間帯に呼ばれるまで、そして専門医に見てもらえるまで大変待たされることになるので、水や空腹時に食べられる軽食や、時間つぶし用の本や何かを持っていくことをお勧めします。
なお、ウルヘンシアはあくまでも「急患」の対応だけです。担当医の診断により通院や再検査が必要と判断されるような症状の場合は、「主治医に会いに行くように」言われますので、退室するときに何を言われているのかを把握する必要があるでしょう。言葉に不安がある場合は、言葉の障害を取り除いてくれるような誰かと一緒に出かけられるのがベストですね。
国民医療保険では歯の治療も対応してくれるのか?
スペインにはじめて赴任1年目、あるいは留学中、または住み始めてまもなく、まだスペインのお国事情にも慣れきっていない時、急に現れる歯の問題。虫歯になったとか、歯の詰めものが取れてしまったという軽い問題であっても絶対に放置してよいことがないのが歯の問題ですね。
ここでお話をしている国民医療保険では、残念ながら虫歯や歯の詰めの治療はしてくれません。歯の治療は完全自己負担となりますので、歯の健康に自信がない人は、日ごろから口内の健康には特に気をつけて、よい歯医者さんをあらかじめ周囲の人に聞いて知っておくとよいでしょう。
ただし、子供の歯の検診はセントロ・デ・サルーでしてくれます。また、親知らずが口内の健康を害しているなどといった場合にも、無駄な親知らずを抜いてもらえます。ですが、虫歯が見つかったら、その治療をするのはプライベートの歯医者さんですよ。
スペインで暮らす~医療事情 民間医療保険編~
さて、公的医療保険の概要をここまで説明してきました。筆者自身、マドリードに暮し始めて2年目ほどから10年ほど民間医療保険に入っていましたが、娘の出産を機に民間は解約し、今ではプブリコのみの生活をしています。
何か加入のきっかけで、何が解約のきっかけだったか。
それについては、次の記事【スペインで暮らす】医療事情 ~民間医療保険編~「スペインで暮す~医療事情 民間医療保険編~」にてお話しようと思います。
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