スペインの地理的条件と気候 基礎知識

by 土屋 寛子

スペイン オリーブの木とオリーブの実

このセクションではスペインって暑いの寒いの?太陽さんさんと一年中温かいイメージがある!とか、コスタ・デル・ソルって聞いたことあるんだけど、海岸が多い国なんだよね?と何となく知っているけれど詳しくは知らないという方や、これからスペイン旅行、スペイン留学、移住を考えているすべての方に、手っ取り早く簡単に、スペインの地理的条件と気候の関係を知っていただくためまとめたページです。早分かりガイドであると同時に、データと実際に役に立つ情報も取り混ぜながらスペインという国を少しでも理解していただけるよう努めています。時に筆者の個人的意見や印象なども交えた部分もありますが、半分勉強、半分お楽しみ、という感覚で少しずつ参考にしていただければ幸いです。

 

スペインの地理的条件

 

スペインはヨーロッパ大陸の最西端に位置するイベリア半島のおよそ3/4ほどを占めています。地図上で見ると、右上隣(北東)にはピレネー山脈を隔てフランスが、左隣(西)にはポルトガルが、そして南にはジブラルタル海峡を隔て目と鼻の先にアフリカ大陸が位置しています。北側は大西洋に広がるビスケー湾に面してます。 スペインは暖かい、または暑い国だと思われている方も多いと思いますが、マドリードの真冬では、最も寒い日だとマイナス2-3度となる日もありますし、カスティーリャ・イ・レオン州ではマイナス5-8度、カタルーニャ州の山岳部でもマイナス2-3度となる地方もありますよ、とお話をすると、「イメージ湧かない!」と皆さんよく仰られるのです。ですが、スペインは地球の緯度から見ると日本とほぼ同じ緯度に位置しているのです。 北スペインのガリシア地方が北海道~東北地方辺り、南スペインのアンダルシアの最南端アルヘシラスは緯度36度ほどで、日本なら東京辺りなのですよ、と説明すると皆さん大変驚かれるのですが、日本と同じくらいなんだと想像してみると、なるほど気温は結局日本と同じくらいなのか、という事実に納得されるようです。

地理と自然条件

スペインは暖かい国、暑い国というイメージが定着しているようです。理由の1つとして考えられるのは、100年近く前から観光立国を目指し、国のイメージ作りをして来たスペイン政府の対外アピール、戦略だと思います。他のヨーロッパ諸国からの訪問者を呼び寄せようと、スペイン政府は「エキゾチック スペイン」「太陽の国 スペイン」といったピーアールを長年繰り返してきたのです。ですがそれはもちろん実質的地理的条件と自然条件からも実証されています。 すこし詳しく分析してみましょう。スペインの地理と自然は中々興味深い特徴があることが分かってきます。

日照時間の長い国

観光地として人気・実績とも世界指折りの観光大国スペイン。ヨーロッパプレスが発表したデーター(データー源はスペイン国立統計局)によると、2019年はスペインを訪問した外国人観光客は前年の記録を+1,1%で更新し、8千300万人以上の外国人がスペインを訪問したとあります。(以下、2001年から2019年までスペインを訪れた外国人観光客人数の推移グラフ)

 

 

スペインを訪れる3人に2人が観光目的です。スペインを訪問する外国人のトップ5をランキング順に見てみると、

1位 英国

2位 フランス

3位 ドイツ

4位 ノルウェー・スウェーデンの北欧諸国

5位 イタリア

となっています。彼らの一番の目的はスペインの海岸地方でのバケーション。それはスペインが年間1600(北部ガリシア地方)~2800時間(マヨルカ島)もの日照時間が記録される国だからでしょう。近年の温暖化の影響を受けてなのか、11月、12月になっても気温の下がらない年が多くなり、秋~冬の間でもマラガ、バレンシア、バルセロナなど地中海沿岸都市のビーチでは海水浴を楽しむ人が見られることも多くなってきました。

 

日照時間からも想像できるように、北部ガリシア地方は降雨量が多く、10月後半~4月初旬頃までは雨の日が多くなります。また日照時間がスペイン国内でも比較的長いマヨルカ島やイビサ島でも、12月~2月頃までは雨がよく降ります。

 

ところでスペインの代名詞のように使われるシエスタ(SIESTA)という言葉。一度は聞いたことがあるのではないでしょうか? 一般的に”昼寝”と訳されるで、のんびりしているとか、仕事をしないとか、この国にマイナスなイメージを植えつけてきてしまった気もいたしますが、スペインの夏はご覧頂いた通り日照時間が長いのです。つまり夜の10時まで明るい日が続き、日中は太陽が照りつけ、50度までに熱せられたアスファルトや大地、ビル、家屋の温度は夜中の12時まで下がらないという現状からすると、昼間に休んでおかないと体が持たないというのが実情だと筆者は思っています。実際のところ、暑い南の方がシエスタの習慣は今も広い地域で維持されていますが、北に行けば行くほどシエスタの習慣は見られなくなっています。

もっと知りたい~♪『シエスタ 過酷な現状の副産物』ブログ記事

平均高度の高い国

「ピレネーの向こうはアフリカだ。」というようなことをナポレオンが言ったとか言わなかったとか。 有名なセリフですが、本土イベリア半島にはフランスとの国境線ともなっているピレネー山脈(最高峰はアネト山-3404m)をはじめ、北スペインにはヨーロッパの天頂と呼ばれるピコス・デ・エウロパ(ヨーロッパ山脈)、マドリード北部にあるグアダラマ山脈、アンダルシアにはネバダ山脈の名で知られるペニベディカ山系(最高峰はムラセン山-3479m)中央、ポルトガルよりにはグレドス山脈などがある他、カナリアス諸島のテネリフェ島にはスペイン領土内最高峰のテイデ山(3718m)があり、国全体でとても平均高度が高い国だと言えます。 これだけ多くの山脈、山系が身近にあるため、スペイン人は登山、ハイキングが好きな人が大変多いです。もちろん小さな子供でも一緒に歩ける家族向け、初心者向け、はたまた近年では車椅子を利用している人も楽しめるハイキングコースなども整備され、ますますハイキングの人気が高まっている印象を受けます。

 

もっと知りたい~♪『夏のスペインでハイキング Vol.1ピレネー山脈編』ブログ記事

 

スペインの山トップ10

1. テイデ山 (3.718 m) – カナリアス諸島

2. ムラセン山 (3.479 m) - アンダルシア ペニベティカ山系

3.   アネト山 (3.404 m) – ピレネー山脈

4. ベレタ山  (3.396 m) –  アンダルシア ペニベティカ山系

5.   ポセッツ山(3.375 m) – ピレネー山脈

6.   ラ・アルカサバ山  (3.366 m) – アンダルシア ペニベティカ山系

7. ペルディド山 (3.355 m) – ピレネー山脈

8.   デ・アストルグ山 (3.355 m) – ピレネー山脈

9. マルディト山 (3.350 m) – ピレネー山脈

10.  ダビウ山 (3.350 m) – ピレネー山脈

 

ご覧のように高い山トップ10内にピレネー山脈の6つの山がランクインしています。かつてはナポレオン軍がピレネー山脈を超えスペインへ進軍。ナポレオンより遥か昔には、北アフリカに興ったカルタゴの名将ハンニバルが、38頭の象を率いてピレネー山脈を越えたと伝えられています。昔の人はどれだけタフなんだか!と驚愕してしまいますよね。

それでも平坦地の多い国

これほど高い山々がある国とは言え、スペイン本土の中央にはメセタと呼ばれる広大な台地が広がっていることも特筆すべき特徴だと言えます。 この台地メセタは首都マドリード、カスティーリャ・イ・レオン、カスティーリャ・ラ・マンチャ、エストレマドゥーラの一部と広範囲に広がっており、さらに中央メセタ、北メセタ、南メセタに分けられています。 メセタの総合面積はおよそ40万平方km。これはイベリア半島の大部分を占めるスペイン本土の総表面積(約49万3500平方km)のなんと80% に当たります。 メセタの平均海抜は600mですから、前述の山系の情報と一緒に考えると、いかにスペインという国がでこぼこの多い地形であることが想像いただけるでしょうか? それでもマドリードからカスティーリャ・イ・レオンへ向かって車やバスで移動をしていても、山を上がったり下ったりしている感覚があまりないのは、首都マドリードがすでに標高646mに位置しており、移動中の1~3時間はずっと海抜646m~800mの辺りを緩やかに上下しながら移動をしているからでしょうか。 ちなみにマドリードはヨーロッパで一番海抜の高いところにある首都なのですよ。

全体的な気候

さてこのようなでこぼこな大地、日本の緯度条件に近い、日本から遥か西端に位置するスペインの気候はいったいどのようなものなのでしょうか。それぞれの地理的条件に影響を受けるため、簡単ではないのですが、大まかには次の4つの区分されるようです。

大西洋気候

ガリシア地方、アストゥリアス、カンタブリア、バスク地方などいわゆる北スペイン全般的に加えて、アラゴン州、ラ・リオハ、ナバラの一部がこの気候に分けられます。全般的に多雨な地方で、湿ったスペインとも呼ばれます。当然湿ったスペインの地方は緑が多く、グリーンスペインとも呼ばれています。気候はさほど厳しいものではありませんが、海抜1000m以上の山岳地方では雪が降ります。

大陸性気候

湿ったスペインと対照的で、乾燥しているのが中央部。マドリード、カスティーリャ・イ・レオン州、カスティーリャ・ラ・マンチャ州、エストレマドゥーラ州などのメセタ全体が大陸性気候に分類されます。夏は乾燥して高気温、冬も乾燥していて寒いのが特徴です。

地中海性気候

一方、カタルーニャ海岸地方、バレンシア地方、アンダルシア地方、加えてマヨルカ島を含むバレアレス諸島などが地中海性気候にあたります。海抜が低いため山脈やメセタに風が遮らる地中海地方は、大陸性気候と比較して冬は比較的温暖だと言えます。 夏は海に近いか近くないかで気温の差は大きく、同じ地中海性気候と言えども、スペインのフライパンと呼ばれるアンダルシアのセビーリャやコルドバの夏は大変厳しく、アフリカさながら45度以上を超える日々は珍しくありません。(ただし、近年はアンダルシアに限らず夏の気温が上昇し続けているのは、なにもスペインに限ったことではないと思います。) 一方バルセロナやバレンシアは海に面しているため、気温は45度にならずとも、湿気が高く、日本の夏を彷彿させるでしょう。

山岳地中海性気候

地中海沿岸地域であっても海岸に近い地域と、海岸から離れた山岳部地域とは気温も随分異なります。 分かりやすい例ですと、アンダルシア地方のグラナダ県には、コスタ・デ・ラ・ルス(Costa de la luz)と呼ばれる海岸地域と標高3,479mのムラセン山を含むネバダ山脈があります。海岸地域からネバダ山脈麓までは車で40分足らずの距離ですが、海岸付近と山岳地域では海抜の差から生じる気温はもちろん、生態系も随分異なるようです。 グラナダの海岸地域はトロピカル海岸(Costa Tropical)とも呼ばれるほど冬場も温暖です。一方の山岳地域はネバダ山脈(雪の積もった山脈という意味)という名称からも想像できるように、スペイン国内でも比較的早く雪が降り始める地域でもあり、雪のシーズンはスキー客で賑わっています。

スペイン ひまわり

併せて読みたい!

  『スペイン旅行のベストシーズンを地方ごとに解説』にて、各地方毎のもっと詳しい気候的条件と照らし合わせながら、旅行のベストシーズンはいつなのかを説明しています。

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